Tumneyのブログ

20代後半の国際公務員。2020年1月からバンコクで雇用・労働問題に取り組んでいます。

日本の派遣労働体験記

こんにちは、国連目指す系ブロガーのTumneyです。これまでのブログでは私の大学院の経験について書いてきましたが、今回は私の専門分野である雇用・労働の問題についてです。

 

私は現在タイにある国連機関で働いていますが、その直前の2019年10月から約2ヶ月間、派遣社員として大手物流会社の倉庫で働いていました。そこには本当に様々なバックグラウンドを持った方々がいて、外国人の方もたくさんいました。それまで日本は島国で世界の中でも特に多様性が乏しい国だと思っていた私にとってこの経験はとても刺激的でした。今回はその派遣の仕事がどういうものか、またその中で私が何を感じたかを書きたいとおもいます。

 

  1. どんな仕事をしたのか
  2. どんな人たちが働いているのか
  3. 派遣社員はグローバル人材
  4. 派遣さんと社員さんの関係
  5. 派遣社員が感じる社会の冷たい視線

 

派遣労働者というと世の中的には雇用の不安定さや正社員との格差などネガティブな側面が着目されがちですが、私の経験からすると良い側面もいろいろとありました。この記事では日本の労働者派遣制度自体を批判したり肯定したりするつもりはありません。ただ、日本の政治家、専門家、メディアがいう「派遣労働者」とその実態には少しギャップがある気がしたので、その点を私の経験と視点からまとめてみようと思いました。

 

1.どんな仕事をしたのか

私が物流倉庫で担当したのは主に家電製品のメンテナンスや入出庫作業です。作業内容はその日によって変わりますが、例えば中古掃除機の清掃と解体、スポーツ中継に使われる大型カメラの梱包作業、ハンドフォークという運搬機器を使った在庫の移動などを行いました。中でも大変だったのは掃除機の清掃です。エアブラシで掃除機の内部に付着したホコリやゴミを吹き飛ばすのですが、ホコリが大量に舞って服や髪の毛についたり、マスクをしていても鼻や咽喉に入りこみ、長時間やると花粉症のような症状がでます。大型カメラの梱包や在庫の移動は、重たいカメラを持ち上げたり、長時間倉庫の中を歩き回るのでオフィスワークしかして来なかった私には大変でしたが、だんだんと慣れていきました。社員さんの中には長年これをやりすぎて腰を悪くする人もいました。

 

以上が私の主な仕事内容です。

 

2.どんな人たちが働いているのか

前述の通り、私が勤めた物流倉庫では本当に様々な方が働いていました。ミャンマーから来たとても陽気なカチン族の30代男性、おとなしめだけども話すと面白い30代のフィリピン女性、カメラが趣味で調理専門学校出身の20代日本人男性、ダンディな美声で声優を目指す20代の日本人男性、スーパーの特売が好きでいつもおすそわけをくれる40代の日本人女性、高校中退後に大検に合格して大学進学を目指す10代の日本人女性、、、

 

みなさん本当に個性豊かです。私の前職は日本の中堅貿易専門商社で、社員はみな日本人で、みな同じような大学を出て正社員になり、定年までそこで働くのが当たり前という典型的な日本企業でした。そんな経験から「日本の会社は多様性が乏しくてつまらない」と感じていた私にとって、この派遣の経験はとても衝撃的でした。

 

一方で共通点もあります。これは全員そうではないですし、あくまでも私の個人的な印象として感じ取った特徴ですが、多くの方が他人には言いづらい複雑な事情を抱えている雰囲気があります。例えば同じテーブルでお昼を食べていても一人スマホいじりに没頭する人、会話をしても視線を合わせない人、声が極端に小さくてたまに震えている人などもいます。毎日一緒に働いているとある程度は仲良くなれますが、どこか簡単には越えられない心の壁、或いは踏み込んではいけない一線がある気がしたのも事実です。

 

3.派遣社員はグローバル人材

私が就職活動をしていた頃、日本企業の就職説明会に行くと「グローバル人材」という言葉をよく聞きました。特に海外でも活躍している大企業ほど、この言葉を連呼していたので、グローバル人材は大企業も欲しがるすごい人材というイメージがあります。今回の派遣労働を通じて、実は派遣社員さんたちこそ真のグローバル人材だと感じました。

 

先述の通り、私の勤めた物流倉庫にはミャンマーやフィリピンなど海外の方もいました。彼らはカタコトの日本語は話せますが、複雑な指示を理解したり、日本人と普通の雑談をすることはできませんでした。それでもみなさんうまく連携して作業をし、最終的にはきちんと時間通りに作業を完了しています。もちろん指示がうまく伝わらずに外国の方がミスをすることもあります。そんなときはみんなで作業をやり直します。また外国の方で日本語が苦手でも、作業に慣れてくると新人に作業のやり方を教えてくれたりもします。

 

色々な事情を抱えていて人とコミュニケーションをとるのが苦手という方も多いので、全体的にぎこちなさはありますが、それでも年齢、性別、国籍を超えた様々な人が協力して作業している、これが私の受けた印象です。

 

4.派遣さんと社員さんの関係

これは職場により様々だと思いますが、私の物流倉庫の場合、社員さんと派遣さんはとっても仲良しで、仕事終わりにみんなで飲みに行く日もありました。ラインのグループもあり、普段からシフトの相談や飲み会の写真をシェアしたりしています。他の派遣の仕事が長かった方に聞くと、こうした関係はすごく珍しいそうです。

 

私としては派遣社員を雇う企業の間でこうした関係づくりが推奨されるといいと思います。実際、派遣社員は肩身が狭いとよくいわれます。職場によっては正社員と派遣社員が明らかに区別/差別されていて、正社員たちが仲良くランチに出かける中、派遣社員は一人でお弁当という話や、正社員と派遣社員では座る椅子が違っていて疎外感を感じるといった話も聞いたことがあります。同一労働同一賃金という政府の方針により労働者派遣法が改正されたおかげで賃金や有休といった待遇格差は改善されつつありますが、もっと身近なレベルで正社員と派遣社員の仕切りを低くする取り組みは大切と思います。

 

5.派遣社員が感じる社会の冷たい視線

私が派遣社員として働いたのはわずか2か月間でしたが、その間に強く感じたのが派遣社員に対する世間の冷ややかな視線でした。例えば、友人に物流倉庫で派遣の仕事をしていると話すと「きみは正社員を辞めてアメリカの大学院も卒業したのに、なぜそんな仕事をするのか」という返事がきます。また通勤電車ではスーツ姿のサラリーマンに囲まれるなか自分だけジャージを着ていると、自分は社会の歯車から逸脱して変な方向に進んでいるのではないか、このままで大丈夫なのだろうかという気持ちに苛まれます。自意識過剰なのかもしれませんが、私は派遣社員になったとたん、少なからずそうした不安がこみ上げました。

 

この不安の裏には、日本における派遣社員の悪いイメージがあると思います。派遣社員は正社員になれなかった人、何らかの事情できちんと働けない人、まじめに働く意思が弱い人といったネガティブなイメージが社会には根付いていて、そうしたイメージが、派遣社員が感じる冷たい視線に繋がっていると感じました。

 

まとめ

実際に働いた感想として、派遣社員の方々は決して誰かに劣っているわけではなく、むしろグローバルな環境で働いていて、まじめに働く意思もあります。(少なくとも私がいた職場はそうでした。)

 

一方、派遣社員を冷遇する企業や、不健全な働き方と考える人たちがいることも事実で、こうした現状は今後改善してほしいと思います。実際、派遣社員は企業の一時的な人材不足を補う大切な役割を担っており、社会からより尊厳をもってみられるべきと思います。また、ITプログラマーコンサルタントのようにそもそも職を転々としてキャリアを積み上げていくような人たちにとって労働者派遣制度は、次の仕事が始まるまでの所得を補う手段として重宝されており、こうした優秀な人たちも派遣として働いていると聞きます。国連職員も正規ポストを得るまで3-5年おきに就職活動をせねばならず、空白期間が空くこともしばしばなので、私のような若手職員にとっても日本の派遣社員という働き方は合理的で有難い制度です。

 

なので、ぜひ、派遣労働者に対する世間の理解が今後少しづつでも変わっていったらと願っています。